新型コロナウイルス感染症の拡大は、「教え学ぶ」という分野にも大きな影響を与えました。
その中でも顕著なものの一つに、セミナーや研修のオンライン化があります。
私は学校教育にはテンポラリーな大学講義程度しかかかわっていません。しかし、セミナーや企業研修には登壇させていただいてきました。そこで感じた、コロナ禍で起こったセミナーや研修の変化についてお伝えしようと思います。
まずは、主に講師やセミナー会社など、コンテンツ提供側に起こったことをお伝えします。
Contents
終息を待つか、オンライン化するか
教室内や公共交通機関で新型コロナウイルスに感染することへの怖さや、「三密を避けろ」という政府の要請もあり、昨年からは教室に集合してのセミナーや研修は激減しました。私も2020年の3月以降、対面セミナーに登壇したのは一度だけです。
一方、コロナ禍の影響で広がったのはZoomやTeamsなどのICT技術を使ったオンラインセミナーです。
慣れないインフラに四苦八苦
2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令されました。発令当初は、これほど長く影響が続くと考えていた人は少ないのではないでしょうか?風向きが変わり始めたのは、宣言解除が5月31日まで延長することになった頃です。新規感染者数がなかなか減らず、また宣言が解除されても感染の再拡大を懸念する専門家の声が報道されていました。
そこで、6~7月頃から講義のオンライン化が本格的に進みます。
オンラインセミナーは、今でこそ市民権を得ました。しかし、はじめは講師も受講生もセミナー会社も暗中模索の状態でした。
ツールやネットワークの課題
特に、講義をオンライン化する際に使用するツールの選択には悩まされました。
セミナー会社主催のセミナーはZoomが使用されることが多いようです。しかし受講生から「Zoomは会社で禁止されている」「TEAMS(Skype、WebEx、Meet)しか使えない」といった意見が出てきました。また、企業研修では、その企業が指定するツールを使用することがほとんどです。従って、講師側は著名なツールは一通り使えるようになっている必要があります。
その他にも、ネットワークやハードウェアのトラブルが多発しました。例えば、以下のような原因で講義を聞けなくなってしまうというものです。
- 講義途中でネットワーク切断や遅延が発生して動画や音声が途切れる。
- PCやプログラムのハングアップにより再起動を余儀なくされる。
講師・受講生ともに対応が必要
ネットワークやハードウェアについては、各自で対策をとることが必要になります。
私は以前はノートPCを使用していました。しかし、長時間Zoomを使っているとCPUが熱くなってクロックダウンしてしまいます。そこで、ハードウェアをグラフィックボード付きのデスクトップPCに変更しました。これにより排熱の向上とCPUへの負荷低減を図ります。またネットワークをWi-Fi(無線LAN)から有線LANに変更しました。これにより、安定で高速なネットワーク接続を確保しています。
このような対策で、講師のトラブルにより講義を提供できなくなるリスクを低減しています。
一方、受講生には同じような対策を強要することはできません。そこで、講義を録画した動画を一定期間視聴できるようにすることで受講生側のトラブル対策としています。
教室と同じ内容では伝わらない
私自身、オンライン化した当初は教室と全く同じように講義を行っていました。
しかし、すぐに「対面セミナーと同じようにできない」ことがわかってきます。
こまめに休憩が必要
一つは、受講生の集中力が続かないことです。
私の場合、教室では90分前後の講義と10分程度の休憩をとるような時間配分でした。大学の講義に近いイメージです。
でも画面を長い間注視し続けるのは、集中力を要します。
例えば映画の場合、長時間画面を見ていても飽きさせないように様々な工夫がなされています。
ストーリー構成や演出を凝らし、映像・音響の効果などを使います。でも、従来のビジネス系セミナーは、エンタメ性を重視したものは少なかったように思います。
また、映画やテレビは役者や芸人、アナウンサーなど、訓練を積んだ表現のプロが出ています。
しかし、私自身はイケメンではありませんし、あまり活舌のいい方ではありません。芸人さんのように人を引き付ける話術を持っているわけでもありません。
テレビの場合は、約15分に一度CMが入ることで気分転換ができます。
そこで私は、休憩時間の間隔を最大でも60分としました。さらに15分に一度程度は“閑話休題”のような話をいれることで、受講生の集中力維持を図っています。
しかし、これらの時間が加わったことから講義全体の時間調整が必要となりました。必然的に、オンライン用にコンテンツを新しく作り直すことになります。
受講生が見えない
もう一つは、講師と受講生の関わりです。
教室講義の場合、講師は講義を行いながら受講生の様子を観察しています。もし理解が難しそうにしているひとがいれば補足説明を入れ、集中していないような人がいれば声をかけます。何か言いたそうな顔をしている人がいれば問いかけて質問を促します。
このような双方向の関係性を講義中に維持することで集中力を維持し、講義の理解度を高めます。
また、受講生の反応が良いと講師のテンションも上がります。それが受講生の満足にもつながっているのではないかと思っています。
オンライン化した現在、受講生はカメラとマイクをオフにして参加します。
オフにする理由は以下のようなものです。
- 通信量を減らすことで通信速度が低い環境で受講している人に配慮
- ハードウェア負荷の低減
- 受講生のプライバシーに配慮(自室の背景を見せない)
- (特に女性の)化粧や身なりを気にせずに受講できる
- 生活音が入ることを防止
- ハウリングを防止
しかし、カメラとマイクがオフになったことにより、講師は受講生の様子を伺う術がなくなりました。
孤独との戦い
受講生のカメラがオフになると、講師は自分のPCのに向かって話すだけになります。
私も時に「今、誰のためにしゃべっているのだろう?」という虚しさを感じることがあります。相手の反応がわからないので、ニュースのアナウンサーのように、事前に準備した原稿を淡々と読むような講義になりがちです。
カメラの向こうの様子がわからない状況で受講生への声掛けもしにくいですし、最近では参加者の氏名などがわからないようになっていることもあります。
せめて、私も芸人さんのように面白くて飽きずに聞いてもらえるような話術を身につけられたらいいのですが。
講師も”映え”が必要?
また、以前とはお化粧と髪形をがらりと変えていらっしゃる女性がいました。オンライン会議では顔がアップになるため、”映える”ようにしたとのこと。その結果、講師としての評価も高まっているそうです。
オジサンの私がメイクすることには心理的抵抗がありますが、普段お化粧をされている方は、そのやり方を少し変えることで受講生との関係性を少しでも作ることができるかもしれません。
次回は、受講生側に起こったことをお伝えしようと思います。