局方の消毒用エタノールではなくても、新型コロナウイルスは消毒できる
厚生労働省が、新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)の中で、日本薬局方で定めている消毒用エタノールよりも低い濃度でも、新型コロナウイルスには効果があると説明しています。(化学の用語としては厳密には異なりますが、この記事ではアルコールとエタノールは同じものとご理解ください)
局方の規格ではエタノールの濃度は76.9〜81.4vol%と定められていますが、上記のQ&Aの中では60%以上でも有効性があるとしています。
実際、最近の論文を検索すると、新型コロナウイルスでは30%以上・1分で有効性があるという論文や、同類のエンベロープ型ウイルスで45%以上・10秒で有効性があるという論文など、アルコールの濃度と消毒性能に関する論文がいくつか出されていることが見つかります。
これらから勘案するに、新型コロナウイルスには、多少アルコール濃度が低くても有効性がある可能性は高そうです。
何にでも効くのか?
ところが、ファミリーレストランで昼食を食べているときに、隣の席の人たちが「知ってる?アルコールの濃度が結構低くても、除菌ができるんだって。」と、あたかも雑菌の消毒までできるような口ぶりで話しているのが耳に入り、「その理解で大丈夫かな」と思って少し調べた結果を、まとめてみます。
以下の論文から、アルコールの濃度と消毒性能について、簡単にまとめてみました。
- Inactivation of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 by WHO-Recommended Hand Rub Formulations and Alcohols (Annika Kratzel et al., EID Journal Vol.26 Jul-2020)
- 殺菌・抗ウイルス効果に及ぼすエタノール濃度の影響 (東京医療保健大学大学院 神明 朱美 氏 博士論文(2019年))
上図では、緑色の範囲は「効果あり」とされた濃度、黄色は「菌やウイルスの種類により異なる」、オレンジ色が「効果なし」となっています。
局方エタノールの規格は、多くの菌やウイルスに広く効果が認められる濃度となっています。
一方、濃度を60%あるいはそれ以下にすると、新型コロナウイルスや、同類であるエンベロープウイルス類には効果があるものの、除菌できない菌類があることがわかります。
また、以前から「アルコールは効かない」と言われていたノロウイルスやロタウイルスといったノンエンベロープウイルスには、やはりアルコール消毒は万能ではないこともわかります。
また、作用時間を長も考慮する必要があります。濃度が薄くても作用時間を長くすると効果がありますが、いくら有効性があるとはいえ、30秒や1分といった時間を消毒に費やすのは難しいと思います。やはり、ある程度の濃度はあった方がよさそうです。
ちなみに、アルコール濃度が高くなっていった場合、有効性が薄れるという情報もあります。理由として「すぐに蒸発してしまうため作用時間がとれない」、「消毒には一定量の水が必要」などの情報がありましたが、短時間で根拠データまでたどり着くことはできませんでした。
薬局には「消毒用エタノール」のほかに、「無水エタノール」という、さらに高濃度のアルコールが売られていますが、アルコール濃度が高ければ有効性も高いというわけではないようです。
新型コロナウイルス対策としての局方消毒用エタノールが手に入らない場合は、WHOのガイドライン(60-80%)の濃度となる製品を目安に入手するのがよさそうです。
なお、アルコール以外の他の消毒用薬剤を使用する場合もあると思いますが、これらの新型コロナウイルスへの効果については情報が錯綜しているので、もう少し情報収集を続けたいと思います。
低濃度では新型コロナウイルス以外の消毒効果は低い可能性
厚生労働省が「60%でも消毒効果がある」としているのは、新型コロナウイルスに限定したものであり、一般的な雑菌や、新型コロナウイルス以外のウイルスを対象とした情報ではありません。
もうすぐ梅雨ですね。食中毒のリスクが高まる季節です。
正しい知識で病気から身を守りましょう。
※この記事は、執筆時に得られた情報をもとに書いています。今後の研究の進展等により変わることがあります。